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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)209号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、以下に説示するとおり、第二引用例の記載事項を誤認した結果、本願発明の方法と第一引用例記載の方法との相違点(2)についての認定判断を誤り、ひいて、本願発明は、第一引用例及び第二引用例記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において違法として取り消されるべきである。

前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許公報)を総合すると、本願発明は、照明機具の反射体等に用いられるアルミニウム等の金属板の表面にケイ酸塩溶液を塗着するコーテイング方法に係る発明であつて、金属板の表面にケイ酸塩溶液を塗布する方法としては、例えば、従来、第一引用例に示されているように、JIS3000番のAl―Mn系合金を基材として使用し、その上にケイ酸塩溶液を塗布して乾燥させ、続いて三二〇℃近くの高温でこのケイ酸塩被膜を焼き付けた後、被膜中に存在するアルカリ金属イオン(K+)を除去して、これと空気中の炭酸ガスの反応による被膜の白濁化を防止するために酸処理を行い、次いで水洗を行う一連の工程を一回だけ行うという方法が知られているが、この種の従来の公知技術では、被膜の焼付温度が約三二〇℃と高温であるため、我が国で一般に使用されているJIS1000番のアルミニウム板(焼なまし温度は、JIS3000番のAl―Mn系合金より約七〇℃低い。)を使用した場合には、アルミニウム板に焼なまし現象が現れて反射体としての性質が損なわれるおそれがある等の欠点が生じるほか、被膜が単層か、あるいは薄いために、耐摩耗性、耐スクラツチ性に劣るだけでなく、被膜にピンホール現象が発生し、この部分から腐蝕されるため、耐蝕性にも劣る等の欠点があり、この欠点を除くために被膜を厚くすると、ひび割れを生じやすいという難点があり、また、従来の公知技術においても、ケイ酸塩被膜を最終的に酸処理することによつてアルカリ金属イオンを除去しているが、従来の方法は、一度のコーテイングにより形成した被膜に酸処理をするために、薄い被膜にアルカリ金属イオン抽出による多数の微細孔が発生したままとなり、被膜がもろく不安定な状態になるという欠点があり、被膜を厚くするためには、アルミニウム等の金属板の表面にケイ酸塩溶液を単に二回以上コーテイングすることも考えられるが、そうした方法では各被膜間の結合強度が弱く、剥離しやすいという難点があつたこと、本願発明は、このような従来技術の欠点や問題点を根本的に改善し、特に国内で一般に使用されているJIS1000番の基材に適応することができ、しかも、耐摩耗性、耐スクラツチ性及び耐蝕性に優れた反射体を提供することを技術的課題ないし目的とし、本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したもので、この構成を採用することにより、<1>アルミニウム金属板の表面に第一被膜を形成する第一工程の終りに、中間的に酸処理及び水洗を行つて、被膜の表面に微細孔を形成したうえ、該第一被膜の表面に第二工程による第二被膜を形成するので、右微細孔に第二被膜のケイ素と金属イオンが拡散して充填され、これが根掛り部となつて第一被膜と第二被膜とが極めて緻密性を保つて強固に結合し、ピンホール等が発生することもないので、柔軟性を有するとともに耐蝕性、耐薬品性、耐摩耗性、耐スクラツチ性に優れた強固な二重ケイ酸塩被膜を形成することができ、<2>第二被膜に最終的な酸処理を行つて、同被膜の表面からアルカリ金属イオンを除去するため、被膜中のアルカリ金属イオンと空気中の炭酸ガスとの結合による被膜の白濁化を防止することができるだけでなく、被膜中、殊に第一被膜と第二被膜の境界部分に適度のアルカリ金属イオンを含むため、被膜の柔軟性が保たれ、ひび割れ等が生じないという作用効果を奏し得るものと認められ、右認定の事実によれば、本願発明における中間的な酸処理の技術的意味は、第一工程により形成される第一被膜中のアルカリ金属イオンを抽出除去するということのほかに、酸処理によつて第一被膜に第二被膜の根掛り部となり、かつ、第二被膜との境界部で第二被膜から浸透してくるアルカリ金属イオンを保持するという機能を果たす微細孔を形成するという点にあるものと認められる。他方、第一引用例(第一引用例が本願発明の特許出願前国内において頒布された公開特許公報であることは原告の明らかに争わないところである。)に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、本願発明と第一引用例記載の方法との間に本件審決認定のとおりの相違点(1)及び(2)があること、並びに水洗が酸処理、中和処理等に付随して行われること、及び安定な被膜を形成するために同一処理を二回以上繰り返すことが広く表面処理の技術分野において周知の事項であることは原告の認めるところ、右の第一引用例記載の方法と前認定の中間的な酸処理工程をも含めた本願発明の第一被膜の形成方法とが同一の被膜形成方法であることは原告の明らかに争わないところであるから、本願発明の第一被膜の形成方法と同一と認められる第一引用例記載の方法により製造された被膜には、本願発明の第一被膜と同様の微細孔が形成されているものと認められるものの、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、右酸処理を施された被膜のもつ欠点、すなわち、被膜がもろく不安定な状態になるという欠点の存在を示唆する記載はもとより、本願発明の技術的課題をなす右欠点の解決及び解決方法あるいは被膜表面に形成される無数の微細孔を厚い被膜を形成するために利用することについては、これを示唆する何らの記載も認めることができない。

ところで、原告は、本件審決の第二引用例の記載事項の認定及び相違点(2)についての認定判断を争うから、この点について検討するに、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によると、第二引用例は、本願発明の特許出願前頒布された米国特許第三、四九九、七八〇号明細書であるが(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、それには、アルカリケイ酸塩被膜の形成について、「光沢化処理後間もなく、望ましくは直後、そのアルミニウム部材には、典型的には約〇・二ミル(〇・〇〇五mm)の厚さのケイ酸塩保護被膜を被覆する。このために、アルミニウム部材は、アルカリ金属のケイ酸塩と水(湿潤剤を含むことが望ましい。)からなる溶液に浸漬する」(同号証第一頁第二欄第一三行ないし第一八行)、「アルミニウム部材をコーテイング浴から取り出し……余分のケイ酸塩溶液を除去した後、このようにコーテイングされた部材は室温又は約二〇〇°F(九三・三℃)までの温度の炉内で乾燥させられる。その後、コーテイングされた部材は脱水及びそれによる被膜を硬化するために約六〇〇°Fないし七〇〇°F(三一六℃ないし三七一℃)で約六分間焼き付けられる。」(同号証第一頁第二欄第五八行ないし第二頁第三欄第二行)、「約六〇〇°F(三一六℃)以下の温度は、ケイ酸塩被膜の十分な安定性をもたらさないことが分かつた。ケイ酸塩被膜の最高に可能な脱水を保証し、それによつて透明な膜を提供するためには、少なくとも約六〇〇°F(三一六℃)の焼付温度が必要である。約七〇〇°F(三七一℃)ないし九〇〇°F(四八二℃)での被膜の焼付けは、ケイ酸塩被膜に残る少量の水和物を実質的に減少させない。したがつて、アルミニウムの性質に悪影響を与える危険を避けるために、被覆したアルミニウムを約九〇〇°F(四八二℃)以上の温度に加熱することは好ましくない。」(同号証第二頁第三欄第三四行ないし第四四行)、「次に、その焼付けを行つた被覆部材は、焼付炉から取り出され、ケイ酸塩被膜の表面領域に残つている化学的結合水又は水和物を中和するために、熱い酸溶液、例えば約一四〇°F(六〇℃)に加熱した二〇%硝酸溶液に約三〇秒浸漬する。」(同号証同頁同欄第二行ないし第七行)、「このような中和は、かかる水和物と空気中のCO2との接触による炭酸塩の生成を防ぐ。この中和をしないと、風化のためにケイ酸塩被膜上にくもつた膜が生成する。」(同号証同頁同欄第七行ないし第一一行)、「次に、その部材は少量の水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを含む温水中で短時間すすいで表面に残つている酸を洗浄する。」(同号証同頁同欄第一一行ないし第一四行)、「普通、この工程は、ケイ酸塩被膜を二回被覆するために繰り返され、全体の厚さを約〇・二ミル(約〇・〇〇五mm)にする。」(同号証同頁同欄第一五行ないし第一七行)との記載があり、また、その奏する作用効果について、「本発明に従つて作成されたケイ酸塩被膜は、化学薬品や他の汚染剤に対して高耐蝕性で、硬質かつガラス状であつて、強固に密着した透明膜であり、しかも掃除が極めて容易であるとともに、下のアルミニウム表面の高反射特性に著しい影響を及ぼさないものである。更に、……周知の方法に比べて、低純度のアルミニウム上に高反射鏡面が前述の方法によつて得られるという予期せざることが分かつた。」(同号証同頁同欄第五八行ないし第六九行)という記載があることが認められ、右記載によれば、第二引用例記載の発明における酸処理の技術的意味は、焼付後もなお被覆表面領域に残存する化学的結合水あるいは水和物を中和することにより、被膜の白濁化を防止する点にあるものと認められる。このことは第二引用例の酸処理条件は、前認定のとおり、二〇%硝酸溶液という比較的高い濃度の硝酸溶液を用いて、六〇℃で約三〇秒間浸漬するというものであるのに対し、前掲甲第二号証によれば、本願発明の被膜全体からのアルカリ金属イオンの抽出除去を目的とする中間的酸処理条件の具体例は、七〇℃の三%硝酸溶液に約三分間浸漬するというものであり、また、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載の酸処理は六〇℃ないし七〇℃の〇・一%硝酸水溶液等に約四分間浸漬するものであることが認められ、右事実によると、第二引用例記載の酸処理は、本願発明や第一引用例記載の酸処理とは異なり、極めて高濃度の酸を用いた短時間の処理であつて、本願発明や第一引用例記載の方法と同様に、被膜の全体にわたつてアルカリ金属イオンの抽出除去を行うことを目的とするものとは到底考え難いことからも首肯し得るところである。したがつて、第二引用例の中和処理をした被膜には、本願発明や第一引用例記載の微細孔と同様に無数の微細孔が形成されているものと認めることはできず、叙上認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、第二引用例における第一被膜に対する中和処理は、本願発明や第一引用例記載の酸処理とはその技術的思想を異にするものといわざるを得ず、また、第二引用例記載の方法において右中和処理をも含めた被膜形成工程を二回繰り返す構成のもつ技術的課題ないし目的及びそのもたらす効果は、本願発明が酸処理工程を繰り返す構成により企図した前示の技術的目的ないし課題及びそれがもたらす効果と全く異なるものというべきである。

叙上のとおりであつてみれば、第二引用例は、第一引用例記載の方法と類似した方法とはいえず、したがつて、本件審決のこの点の認定は誤りというべきである。そして、前説示のとおり、第一引用例と第二引用例記載の各酸処理の方法がその技術的思想を異にし、また、第二引用例記載の酸処理の方法及びこれを二回繰り返す点が本願発明のそれと技術的思想を異にすることを考慮し、更に、安定な被膜を形成するために同一処理を二回以上繰り返すことが広く表面処理の技術分野において周知の事項ではあるが、第一引用例記載の方法において、単に被膜の厚さを厚くし、併せてその白濁化を防止することだけを意図して被膜を形成しようとするならば、第一被膜を形成した後、酸処理を施すことなく第二被膜を形成し、最終工程として右形成した二層からなる被膜に酸処理を施して、被膜中のアルカリ金属イオンのほとんどを抽出除去すれば足りるとするのが技術常識とみられることを併せ考えると、本願発明における酸処理の工程を二回繰り返して行うようなことが第二引用例に記載されているとし、このような工程は当業者がケイ酸塩コーテイングを行うに当たつて必要に応じ付加し得る工程にすぎないものとは到底認めることができず、本件審決のこの点の認定判断は、誤りといわざるを得ない。被告は、本願発明の方法と第二引用例記載の方法との類似性に関して、<1>第二引用例の特許請求の範囲では「酸溶液で処理」と記載されているのに対し、本願発明の明細書の特許請求の範囲には「酸処理」と記載されているだけであるから、両者は、酸処理について表現上の差異が認められるが、その表現上の差異は技術的に意義のある差異ではない旨、<2>本願発明と第二引用例記載の発明とは、いずれも特許請求の範囲には、「酸処理」(本願発明)、「酸溶液で処理」(第二引用例)と記載されているだけで、何らの数値限定もなされていないから、本願発明の第一被膜形成工程における酸処理においては、例示より濃度の高い硝酸水溶液を使用し得るし、逆に、第二引用例の第一被膜形成工程における酸処理においては、例示より濃度の低い硝酸水溶液を使用し得るのであつて、両者間には明確な差異があるということはできない旨、<3>両者の発明の詳細な説明の項に例示されている具体的な処理方法を比較して、本願発明の酸処理は、三%硝酸水溶液で三分(一八〇秒)処理であるのに対し、第二引用例の酸溶液による処理は、二〇%硝酸水溶液で三〇秒処理であるから、両者の被処理物に対する化学的作用は、前者が五四〇%・秒であるのに対し、後者は六〇〇%・秒となつて大差なく、しかも、前者は七〇℃で処理するのに対し、後者は六〇℃で処理を行うことを考慮すれば、被処理物に対する酸処理の作用は、むしろ第二引用例記載の方が大きいとさえいえるものである。そして、いずれの方法も、K+イオンとそれに対応する量だけ存在するOH-イオンを硝酸水溶液で除去するのであるから、結局、両者は、本願発明の方法では低濃度であるためゆつくり進行し、例えば、三分かかつて進行するのに対し、第二引用例記載の方法では、高濃度であるので、中和反応が速く進行し、例えば三〇秒で終了するという差があるにすぎない旨、<4>本願発明の明細書中には「抽出」という用語も「抽出」に関する説明も全くなく、本願発明の酸処理がアルカリ金属イオンの抽出であるとすることはできない旨主張する。しかし、<1>の点については、前認定説示のとおり、本願発明における酸処理の技術的意味が、第一工程により形成される第一被膜中のアルカリ金属イオンを除去することによつて、第二被膜の根掛り部となり、かつ、第二被膜との境界部で第二被膜から浸透してくるアルカリ金属イオンを保持するという機能を果たし、それによつて最終被膜に対する柔軟性付与に寄与する微細孔を形成するという点にあるものと認められるのに対し、第二引用例記載の方法における酸処理の技術的意味は、焼付後もなお被覆表面領域に残存する化学的結合水あるいは水和物を中和することにより、被膜の白濁化を防止する点にあるから、両者の酸処理の技術的思想は実質的に相違するものであつて、被告の右主張は採用することはできず、<2>の点については、前認定説示のとおり、本願発明においてなす酸処理は、微細孔を形成するに足りる酸処理である(このことは、本願発明の特許請求の範囲に明記されている。)のに対し、第二引用例記載の方法における酸処理は、中和処理で被膜表面に存する水和物等を中和するものであり(このことは、前掲甲第四号証中特許請求の範囲に明記されている。)、両者の酸処理によつて生ずる被膜表面の態様の差異、すなわち無数の微細孔が形成されるか否かは、酸の濃度ばかりでなく、処理時間や処理温度の違いによつて生ずる現象の違いに基づくものであるから、被膜表面の態様が異なる以上、酸の濃度等において同一の場合があるものと解することはできず、したがつて、被告の右主張は、その前提において誤つており採用することはできない。また、<3>の点については、各引用例中に記載のアルカリ金属ケイ酸塩被膜に対する硝酸水溶液の化学的作用が、使用硝酸水溶液の濃度と処理時間の積の値が同じならば、同一内容であるとする根拠はなく、この点を立証するに足りる証拠もないから、右被告の主張も採用することはできず、更に、<4>の点については、前掲甲第二号証によると、本願発明の明細書中の発明の詳細な説明の項には、「第一工程における中間的な酸処理による第一被膜の金属イオンの抽出後の微細孔に」(同号証第二頁第四欄第一八行ないし第一九行)という記載が認められるばかりか、前示のとおり本願発明の方法における酸処理と同一内容の処理である第一引用例記載の方法が「抽出」のための酸処理であることは、前掲甲第三号証の第一引用例の明細書の発明の詳細な説明の項の記載から明白であるから、この点についての被告の主張も失当であつて、採用することができない。また、被告は、相違点(2)についての本件審決の認定判断に関して、表面処理や塗装の技術分野において、被膜形成のための一連の処理工程を二回以上繰り返して被膜の厚さを増し、堅ろうなものとすることは広く知られており、このような二回被覆法や二度塗り法が広く採用されている理由は、第一層の表面が粗面化あるいは多孔質化されて、そこに第二層の被膜形成成分が侵入して根掛り部を形成し、二つの層が強固に密着するというアンカー効果が生じるためであるところ一第一引用例及び第二引用例記載の方法においても、酸処理によつて被膜の多孔質化(ピンホールの生成等)が生じていることは本願発明と全く同様であり、そうであるからこそ第二引用例には、通常のこととして被膜形成処理を二回繰り返すことが記載されているのであるから、第一引用例記載の処理工程を二回繰り返しても支障なく厚みのある被膜が形成されることが予測される旨主張する。しかし、前認定説示のとおり、第二引用例記載の酸処理は、本願発明や第一引用例記載のそれと異なり、被膜表面の水和物等を中和するだけで、被膜中に無数の微細孔を形成するものではなく、第二引用例において酸処理をも含めた工程を二回繰り返すことの技術的意味が白濁の発生をより一層防止するという点にあつて、他に格別の技術的意味を有しないものである以上、被告の右主張は、その前提において失当というべきである。のみならず、第一引用例記載の酸処理は、二層の被膜を形成した場合においても、その被膜形成後に最終工程として施せばその目的を達することができるものであるから、第一引用例記載の方法において、単に被膜の厚さを厚くし、併せてその白濁化を防止することだけを意図して被膜を形成しようとするならば、前説示のとおり、第一被膜及び第二被膜を形成した後に、最終工程として酸処理を施して、被膜中のアルカリ金属イオンのほとんどを抽出除去すれば足りると考えるのが技術常識というべきである。この点に関し、被告は、白濁防止の面からも、また、アンカー効果の面からも、酸処理工程を第一被膜形成工程から除外する理由は全く存在せず、むしろ、同じ技術目的において、一連の工程をそつくり二回繰り返す方法が公知技術として説明されているのに、これに反して第一被膜の酸処理工程だけを除外することを想到することこそ、極めて困難である旨主張するが、前認定説示のとおり、酸処理によつて被膜中のアルカリ金属イオンをほぼ全部抽出除去して、被膜の白濁化を防止しようとする第一引用例記載の方法において、被膜を二層にして、しかもその被膜の白濁化をも防止しようとすることだけを考慮する場合には、第一被膜の形成後に酸処理を施さなくても、第二被膜形成後の最終工程として酸処理を施せば、被膜中からほぼ全部のアルカリ金属イオンを抽出除去することができ、被膜を二層にして、しかもその被膜の白濁化をも防止しようとする目的は、十分に達することができるのであつて、そうした観点からは無駄と考えられる第一被膜形成後の酸処理を省略することは、むしろ当然のことというべきである。したがつて、叙上の被告の右主張は採用するに由ない。

そうすると、本件審決は、第二引用例の記載事項を誤認した結果、本願発明と第一引用例記載の方法との相違点(2)についての認定判断を誤つたものというべく、右誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断を加えるまでもなく、違法として取消しを免れない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、本件審決を違法として、その取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属板の表面にアルカリ金属ケイ酸塩化合物の溶液を塗布し、これを三五℃以下の温度で乾燥し、続いて二四〇℃乃至二七五℃の温度で焼付けて金属板の表面に被膜を形成し、次いで該被膜を中間的に酸処理しかつ水洗いすることによつて被膜中のアルカリ金属イオンを除去して被膜表面に微細孔を形成した後、該被膜の表面に再度アルカリ金属ケイ酸塩化合物の溶液を塗布することにより前記微細孔を充填して根掛り部を形成した被膜を設け、該被膜を前記の乾燥及び焼付と同じ温度条件にて乾燥し焼付けてから酸処理及び水洗いを行うことを特徴とする金属表面へのケイ酸塩溶液のコーテイング方法。

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